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仮想通貨と会計基準のお話

こんな記事を読みました。

jp.reuters.com

いけいけ絶好調なテスラが仮想通貨の一種であるビットコインに15億ドル投資したというニュースです。上の記事は仮想通貨に適用される会計基準の穴について論じています。なかなかおもしろかったので、たまにはまともな会計の記事でも書くこととします。これからの話は総論的かつ概要を述べたもので、プロとしてのアドバイスは含まれていませんことご了承ください。

仮想通貨に適用される会計基準(日本基準)

日本においては、「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」という実務対応報告が出されており、この取扱いで会計処理をすることとなっています。活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理と規定されていることから、感覚としては売買目的有価証券と変わらないです。なお、活発な市場が存在しない場合は貸借対照表価額は取得原価で計上され、評価益は計上されず、評価損だけが計上されることになります。

活発な市場は、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合とあり、ここは監査する側のジャッジメントが入るところです。マイナーな通貨はまず間違いなく活発ではない判定されますね。

結論の背景を読むと、仮想通貨は中央銀行等の裏付けのある法定通貨ではないことから、仮想通貨を外国通貨として会計処理することは適当ではない、金融商品の定義に照らしてみて、仮想通貨は現金以外の金融資産に該当しない、決済手段として利用されるなど棚卸資産と異なる目的としても利用されるからトレーディング目的で保有する棚卸資産として会計処理するのも微妙、トレーディング目的で保有される無形固定資産という概念はないので無形固定資産としても処理できないという混迷ぶりで、じゃあ新しい会計基準を作ろうという形で実務対応報告が出されています。会計に携わる人間はどれくらい訳の分からない性質かよく分かるはずです。

まとめると、よく売り買いされる仮想通貨は公正価値で測定して損益はPL、マイナーなものは取得原価で認識して評価損だけPLという感じですね。

仮想通貨に適用される会計基準IFRS

さてIFRSではどうかというと、記事でも書かれている通り、仮想通貨は無形資産(IAS38号)として認識されることとなります。やはりIFRS解釈指針委員会(IFRS-IC)でも結構もめた形跡がみられます。IAS38号は他の基準の範囲に含まれる無形資産やIAS32号の定義する金融資産には適用されないことから、日本と同様、これらに該当するか議論がなされていたようです。最終的にIFRS上の金融資産の定義には該当せず、販売目的で保有する仮想通貨に対しては棚卸資産としてIAS2号を適用し、IAS2号が適用可能ではない場合、IAS38号を適用するという感じで落ち着いたみたいですね。テスラは仮想通貨を販売目的で保有していないので、無形資産として認識されます。

ここで耐用年数という概念が出てくるのですが、仮想通貨に償却という概念はないので耐用年数を確定できない無形資産となります。したがって、取得原価で貸借対照表に計上され、毎期減損テストが行われることとなります。評価が下がった場合は評価損を計上という形です。

しかしながら、IASBは2018年の概念フレームワークで財務報告の質的特性に触れ、目的適合性と忠実な表現を有している場合に財務情報が有用であるとしています。

テスラの事例を考えると、大量買入でビットコインの価格は高騰しているのにもかかわらず、テスラのPLに評価益は計上されず、どこかで価格が下落した場合にガツンと評価損を計上するという状況になるため、財務情報は投資家の意思決定をゆがませる可能性が大いにあります。この場合において、財務報告は目的適合性を満たしているとは言いずらいところがあります。特にIFRSは公正価値だったり経済的実質という概念が好きなので、貸借対照表価額が実態にそぐわないのはあまり好ましいとは思わないでしょう。こういった会計基準の想定していない状況が生じた場合に基準のあり方や監査人の基準への理解の深さが問われるんだろうなあと思います。

おわりに

仮想通貨の会計基準について簡単に解説して私見を述べました。個人的にはIFRS13号の活発な市場を類推適用して、金融資産として扱うのが一番実態を表しているような気がするんですけどね。定義に合わないと当てはめできなくて厳しいので、今回の事例で何らか改正が入りそうな気がします。それでは今日はこの辺で。