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本の感想『差別感情の哲学』

今日は中島義道著『差別感情の哲学』の感想でも書こうかなと思います。今年読んでおこうと思った本で、例によってKindleで購入しました。話はそれますが、Kindleとクレジットカードの組み合わせは危険です。本が際限なく買えてしまいます。

差別感情の哲学 (講談社学術文庫)

差別感情の哲学 (講談社学術文庫)

 

 さて、この本は哲学書にあたると思います。他の本より少々難解かもしれません。しかし、ニーチェとかよりは普通に読みやすいです。タイトルにもある通り、この本のトピックは人の抱く差別感情です。他人に対する否定的感情を、不快・嫌悪・軽蔑・恐怖の4つに分類し、それぞれの感情が想起される理由を解説しています。この4つの感情の違いがわからない人は読んでみると新たな発見があるかもしれません。

そして、著者はこうした他人に対する否定的感情と同様に、自分自身に対する肯定的感情も、差別感情を想起させる動因となると主張しています。例えばコミュニティへの帰属意識、家族愛や郷土愛はそれに該当しない人々を知らずに傷つけています。そしてこうした感情は世間に広く受け入れられているため、人々はその差別に対して非常に鈍感になっています。障害者差別など「公認された被差別者」への差別には怒りを表明するにもかかわらず、このような形式の差別には鈍感な人があまたいると、著者は指摘しています。このように一見差別感情の原因とは思えない肯定的な感情も、差別につながることがあります。

こうした自身に湧き起こる差別感情とどう対峙すればいいのかという疑問に関して、著者は自己批判精神と繊細な精神を挙げています。まず自分自身が差別している瞬間を知覚し認めることが必要です。思考停止して自分は差別なんかしていないと思いこもうとするのを、著者は自己欺瞞と呼んでいます。自分の感受性や信念への誠実性に背を向けず、内面のごまかしや怠惰と戦い続けることが必要です。

この本を読んで私も目が覚める思いでした。自分に肯定的な感情ですら差別感情を生み出すというのは今まで考えたこともありませんでした。夏目漱石の『こころ』の一節に、精神的に向上心のない者はばかだという台詞がありますが、向上心のある者はないものを差別し軽蔑します。自分にもそういうところがあるのではないかと感じます。こういう本を読むと自分の生活や考え方が揺さぶられます。少し重たいかもしれませんが、読んでみると新しい発見があるんじゃないかなと思います。